いよいよ京都も最後の日。
夕方には発たねばならないこの日は、初日の「じん六」さんと併せて、絶対に外せないと思っていたお店、「かね井」さんへ。
開店前から行列が出来る・・と聞いていたので、ちょっと早めにホテルを出、「大徳寺前」のバス停で下車。
大徳寺前の大通りから細い路地へと入ると、これも町家の並ぶ住宅街。昔なつかし~い感じのお店がぽつりぽつりと並ぶ中、しばし歩くとふと、行き出た道りの目の前に「手打ち蕎麦」と書かれた素朴な木ぼっこが目に入る。
こ、ここが・・・
思ったよりも静かで小さな通りに、これも思ったよりもずっと素朴な店構え。
時間はまだ11時ちょっと過ぎ。行列はなく、近寄って書かれている貼り紙を見ると、「開店11時半ごろ」と書かれてる。「ごろ」というのは、ミソだなぁ、と思いつつ、まだ早いので辺りをちょっと散策。
わらび餅の「茶絡」や、しぶ~い味のある喫茶店「GARO」も確認し、それでも11時半前にお店に戻るが、開く気配がない・・・
が、これは楽しみな時間のひとつと、一人ポツンとお店の前でたたずみ、しばし待つ 。。
11時45分近く。
やっと奥様が顔を出され、暖簾を出し・・・、「どうぞ 」と、優しい笑顔で迎えて下さり、店内へ。
京都市北区紫野 「手打ち蕎麦 かね井」
暖簾が下ろされたお店は、京町家独特の趣きと、暖かみある静かな風情・・・。
全く他にお客さんのない中、ちょっと緊張して奥様に続いて扉を入ると、ゆったりとした土間の玄関。横には椅子の置かれたウエイティングスペースがあり、そこで靴を脱いで畳敷きのお部屋へと。
「お好きなところにどうぞ」とおっしゃって頂き、奥の濡れ縁を眺められるテーブルに腰を下ろす。
高く取られた天井。そこにかかった梁も年季を感じさせ、使いこまれたような壁も畳も、すべてふうっと心休ませてくれる空気に満ちている。
きちんと磨かれたテーブル席は光り、優しい静寂感が心地いい。
すぐに、お茶とお絞りを出して下さり、ほっと一口頂きながら、もう心は既にこの空間に浸ってる
柔らかい日の光りが、格子の窓から注ぎ込まれ、たゆたゆとしたこの空気。
ああ・・・、いいなぁ。
この空間を独り占めしてしまっているとは、何て贅沢なんだろう・・・と、思いながら、置かれている品書きに目を通す。
まずは、ゆっくりするべく蕎麦前を。
思ったより豊富なお酒の種類に少々迷ったが、外で待っている間にすっかり体が冷えてしまったので、熱燗をお願いする。
頼むと程なくして出されたお酒も、それぞれ京都らしさが滲み出た、ほっこりとしたしつらえ。
充てにちょこんと出されたのは、「山葵の醤油漬け」。これが非常にキク~っ。
それと、蕎麦のミミを揚げた、「揚げ蕎麦」は籠に盛られて。考えてみたら、京都で揚げ蕎麦を食べるのは、これが初めて。軽やかな歯ごたえの揚げ蕎麦は、サクサクとしてとても美味しい。
お酒を出して頂きながら、お料理をお願いしていると、ようやく一人、そして「タクシーも分からなくて~」と一組・・、お客さんが入ってきて、ちょっとほっ・・・
と、頼んだ「蕎麦味噌」がまず出される。
小さな板べらに塗り付けられた蕎麦味噌は、焼き目が付けられ、上に柚子が一片乗せられている。
箸を入れ、口に運ぶと、パリっと焼き立ての表面は香ばしく、中はとってもクリーミィー。葱の風味の出た西京味噌仕立てで、(関東の私には)やや甘めではあるが、このとろ~っとした舌触り、ふわりと香る柚子がいい。
と、味わっていると「お時間かかりますが・・・」と言われた「だし巻き」も思ったより早く出される。
テーブルに置かれる間にも、ぷるぷるっと震わせているふわふわの出し巻き卵。お皿にまで、出汁が染み出し、ほかほかと湯気を立てている。
掴もうとするのも危ういくらいに、ぷるぷるの玉子焼きを口に運ぶと、途端出汁が口に溢れるジューシーさ。ほとんど甘みを含まない関西風の出汁巻きで、やや甘めが好きな私だが、これはお酒にとてもいい。添えられた大根おろしには、白醤油がかかり、これを玉子と一緒に頂くと、さらに美味しい。
玉子焼きに焼き味噌を、ゆっくりと熱燗で頂きながら、のんびり眺める中庭・・・。ゆったりとした時間を感じ、心から憩うひと時 ああ、たまらない・・・。
いつしかお酒も空になり・・・、楽しみにしていたこちらの「粗挽き蕎麦」をいよいよ頂こうと、お願いする。
頼むと程なく、あらかじめ汁の入った猪口に、白髪葱、安曇野の山葵に鮫皮の卸がねが出される。
山葵を摺りつつ待っていると、陶器の器に簀が敷かれて盛られた蕎麦が目の前に置かれ、一目見て、息を呑む。
な、なんて・・・、美しい粗挽きの蕎麦なんだろう
透けるような透明感のある蕎麦には、迫りくるような豪華な蕎麦の星。ざっくりと切られたその切り口の鮮やかさ、思わず見とれてしまう。
うっとりとしながら、おずおずと手繰り上げると、込み上げるように立ち込める温かみのある穀物の香り。
口に含むと、まずざらりと掠めていく心地よい蕎麦の欠片。これをいとおしむように楽しみ噛み締めると、途端深く濃い香ばしさが口に広がってくる。
思わず唸ってしまいそうになりながら、喉元を過ぎた後の余韻まで大事に味わってしまう・・・。
お、美味しい・・・・・・・
これだけの粗挽きを十割で打たれているとのこと、やや短めではあるが、上品でたおやか、それでいて野趣さ溢れた粗挽きの、もっとも好みの蕎麦にすっかり参ってしまってる 。
食べてしまうのが惜しいようにさえ思いながら、そのままで、添えられた塩で、そして、鰹の風味高いすっきりとしたこれも美味し~い汁でと、感動しつつ頂く蕎麦。
タイミングを見て蕎麦湯を出して下さった奥様に、思わず「美味しいです・・・」と告げながら、蕎麦湯を注ぎ入れると、これもしっかりと白濁したクリーミィな熱々のもの。
注ぎいれ頂くと、雑味なくすぅ~っと伸びていく汁の旨さを改めて実感する。
ああ・・・、幸せ。うっとりと余韻に酔いしれる、このひと時 。
いつまでも、あの蕎麦の味わいを覚えておきたい・・・と切に思い、ゆっくりと立ち上がる。
奥様にお勘定をしていると、奥から顔を出してくださるご主人もまた、優しい目をしてる。
ご馳走様でした~
又、是非、この蕎麦は食べに訪れたい。
深く心に思いながら、再び暖簾をくぐり表へと。
京都最後の蕎麦。
すばらしい蕎麦との出会いを幸せに思いながら、名残り惜しい気持ち溢れる思いでいっぱい。
***~・・・
どのお店も、又訪れたいお店ばかり。
京都の素晴らしさを既に感じつつ、再び訪れたい気持ちが強く押し寄せる。
でも、まだ・・・、
訪れてみたいお店はいくつもいくつも・・・。
今年は京都に入り浸りになってしまうヨ・カ・ン・・・?
*お品書き
ざるそば 850円、荒挽きそば 1,000円、辛味大根おろし 1,000円、山かけ 1,000円、鴨ざるそば 1,500円、かけ 900円、おぼろそば 1,200円、鳥なんば 1,100円、鴨なんば 1,500円、ねぎおろしそば 1,200円
出汁巻き 600円、焼きみそ 400円、板わさ 600円、そば豆腐 500円、
エビス(小)450円(大)600円、琵琶長寿生、真澄、鷹勇なかだれ、笑、美田十年熟成山廃、鷹勇にごり、美田山廃にごり、妙の茸どぶろく、菊姫山廃生、萬年雪あらばしり 700円~
「手打ち蕎麦 かね井」
京都市北区紫野東藤ノ森町11-1
075-441-8283
11:30ごろ~14:30 / 17:00~19:00
月曜定休 禁煙
お付き合い下さった月 旧一様、丁寧にアドバイス下さった辛汁様、ayaさん、そしてY様、ありがとうございました~
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私が伺ったのは、ミシュラン前。
ちょっと残念です。
京都と聞いて、まず思いだすのが「かね井」さん。
あの空間はもちろん、
あの蕎麦にもう一度出会いたいです。
さくらさんのコメントを読んでいて、鮮やかあの時の感動が蘇ってきました。
ありがとうございます。
又、京都遠征、計画しなくちゃ(^^)
昨日、かね井さんに行ってきました。おそらyuka様と同じ席に座りましたが、夏のしつらえが風鈴の音とともに、とても風情がありました。
前回感動した粗引きは残念ながら売り切れで普通のせいろをお願いしたのですが、お蕎麦の香ばしさを十分堪能できる美味しさでうっとりでした。蕎麦どうふや焼き味噌などの蕎麦前も美味しかったです。
蕎麦湯も絶品ですよね~そばつゆを1滴も入れない状態でのあの美味しさは凄いです。
お心づかいにも、感謝致します…。
いいですね~、私も夢です(u_u*)~。
かね井さんの蕎麦は、今でも思い出す、じわっと涙が出てしまった程感動したのを思い出します。
蕎麦、確かにレベルが上がっていますよね!新しい方々が率先して、美味しい蕎麦の実を、蕎麦の挽き方、打ち方など、とても研究熱心にやっていると思います。
私としては、うれしい限り(^^)。
確かに、ケーキのレベルアップも目を見張りますよね(^^)。
それにしてもかね井のお蕎麦も
見るからに素晴らしい。
たとえば日本のケーキって
ここ10年ほどの間に
まただいぶレベルアップしたように思うのですよ。
蕎麦にも言えることなのかな。
私も、これからじっくりと、京瑠璃さんの記事読ませて頂きます♪
これからもよろしくお願い致します。
はぁ~良かった~!
安堵感に満ち満ちております。
まだまだ何というか恐縮感がありますが、今後ともよろしくお願いいたします!
コメント下さりありがとうございます。
そ、そんな師だなんて…(^^;
とんでもないです。
ブログ拝見させて頂きました。
とても見やすく分かりやすくて素敵なブログ~…
私も又、京阪神に行きたいと思っていますし、喜んで、リンク貼らせて頂きます。
これからもよろしくお願い致します♪
yukaさんのこのブログは、辛汁さん経由で知りました。
何度も読ませて頂き、「うわ~…」とばかりに引き込まれている内に、
いつの間にやら私の蕎麦の愉しみ方には、何といいますか「yukaさんっぽさ」が加味されているような気がしています。
読んでいて、一番惹かれるんですよね。
書籍化されるのも、必然に思えましたし。
私も何を思ったか(テンプレを「天ぷら」と聞き間違える程、PCには疎いのに)、ブログを始めることにいたしました。
それでですね、いきなりで本当に厚かましい話なのですが、もし差し支えなければ、相互リンクして頂けませんか?
と、私にとっては蕎麦の(心の)師にあたるyukaさんにこんなことをオファーするのは、担任の女の先生に青臭い愛の告白をする思春期の少年に等しい程の勇気と無謀さが要りました。
ふ~。
ドキドキしながら、良いお返事をお待ちしております。
では
でも、東京に続いてのマラソンで完走はやっぱり素晴らしいです。
その後、関節の方は大丈夫ですか?
足の怪我に関しては、こと私も心底そのつらさを味わったので、心配してしまいます。
大丈夫(^^)
「かね井」さんも、「茶洛」さんも、ずっとずっとあります♪
長浜の「そば八」さん、知りませんでした。
調べてみます♪
かね井は時間オーバー(昼2時半まで)でだめ。茶洛の蕨もちも完売。
来年は気合をいれて行きたいと思います。
そのかわり長浜の「そば八」で蕎麦湯割りの焼酎、かよいそばを堪能してきました。
なになに、ぜんっぜん!
今、私もとっても大阪に行きたいくらい、大阪にもたっくさん、素晴らしいお蕎麦屋さんが出来ていますよー。
もし、ハリーさん、戻られることがありましたら、ぜひぜひ私にも教えて頂きたいと思ったりしちゃうくらいです!
それはそうと、京都の蕎麦屋の汁ですが・・・
私は、伝統的なお蕎麦屋さんには、今回行かなかったのでわからないのですが、私が行ったお店に関しては一概にはなかったように思います。
それに・・・
東京でも・・、そういうお店ってありますし・・・。
松葉さんの「にしん蕎麦」は、十年ほど前に頂いた記憶があります(^^)
ところで、京都のそばつゆは薄すぎて違和感を感じることは無かったですか? 学生時代にちょくちょく食べた、京都四条の南座、「松葉」のにしん蕎麦の汁を思い出しています。
でも、夏の夕暮れ、ほんのりと差し込む夕日の縁も風情ありそうですね。
(痒くても、蚊取り線香も風情ありそう~)
ここ、とてもとても気に入ってしまったの。
又、訪れたいお店です。
でも・・
大阪にも行きますよ~♪
夏は開けっ放しになるから蚊が入ってくるんですよ。
縁側に蚊取り線香が置いてあるんだけど・・・
足をボリボリ掻きながら手繰ることになります。
がんばってくださいっ!
それはそうと・・、
別所にも記述したのですが、「なかじん」さんは、残念ながら、1月末でお店をやめられているんです。
詳しくはこちらで・・
http://komulog.nakajin.net/?eid=788635
でも、ぜひ、京都も楽しんできてください(^^)
西東京在住でこのブログのファンです。
実は3/9京都マラソンでタイムリーに、「じん六」、「かね井」等の情報を見させて頂きましてありがとうございます。
平安神宮がスタート、ゴールですので辛汁様情報の「なかじん」もよさそうですね。
ご本人からも了解を受けたので、公表しちゃいました(^^)。
素敵なドクターです。
確かに、・・こっち(裏?表?)で、もっともって出して頂きたいですよね♪
それはそうと・・
辛汁様にも、感謝の気持ちでいっぱいです。
心から、とてもいい京都の日々になりました。これからも、改めてよろしくお願い致します。
分かって すっきりしました。
Mac使いのドクターだったんですね。
最近は 裏の世界(どっちが裏?)で
ご活躍で 表の世界で このお名前を
見聞きしませんが・・・表の蕎麦にも力
入れて欲しいところです。
幸い空いていたのも、ラッキーだったかと・・・。
あの荒挽きはいいですね~。
香り、風味、そして、あの粗挽き。
本当にうっとりしてしまいました。
私もすっかり・・、京都に魅了されています(^^)
あの席は特等席ですね♪
>魚の味が濃厚な蒲鉾は驚きでした
ええっ、練り物好きとしては、じっとしていられないです!
ぜひ、次回訪れた時には、食べてみたいです。
美味かった。
それと、だし巻きは、
食べるのもったいなかった。
にこら、かね井・・京都恐るべし。
奥の席で庭を眺めながら、うまい酒で始まり、肴は口に含むと思わず笑みを浮かべてしまいます。荒挽きの蒿麦で至福のときが最高潮で終われる。また行きたいです。
美味しいものばかりでしたが、魚の味が濃厚な蒲鉾は驚きでした。
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