ふと彼が、「今年は東北の方に行ってみようか」と言い出したものだから、兼ねてから行きたいなぁ、と思っていたお店がすぐに頭に浮かび、東北旅行に即、決定 。
9月17日(月曜日)
まずは、この旅行の一番の目的地、平泉へ。
とにかく、お昼までには着かなくてはならないので、朝5時に出発し東北道へと入る。
途中休憩も兼ねながらも、スムーズに走らせ、昼前に平泉ICに着くことができて、ほっと 。もうすぐそこだ・・・、とはやる気持ちを抑えながらカーナビの指示に従って進むが、見つからない・・・。
おかしい、おかしい、と何度か行ったり来たりした末に、通りから目立たなく奥まって立つお店をやっと見つけることが。
後ろにそびえる山々の景色に溶け込んだ、切り妻屋根のどっしりとした古民家。雨そぶる中、木々や草花に覆われた佇まいに、さらりと掛けられた暖簾がしっとりとした風情を醸し出している。
平泉 「二束の草鞋 地水庵」
北の地で、ずっと訪れてみたいと憧れていたお店・・・。
おずおずと、暖簾を潜り古い扉を開くと、すうっと落とされた暗闇の先に、打ち場がほんのり明るく灯ってる。その手前に、ちょっとした間があり、昼前だというのに既にお客さんが座布団を各々敷いて待っている模様。
さ、さすが・・・。表に止まっていた車の数からも想像したけど、やはり休日の今日は、大賑わい。
我々も前の方に習って、座布団を敷いて待つことしばし。
ちょっと垣間見える店内がとても気持ち良さそうで、期待がさらに増して行く。
ようやく順番になり、奥様にしずしずと通されひとつのテーブル席に腰を落ち着ける。
冷たいお茶を出して頂き、ほっとしながら周りを見渡すと、なんと落ち着いた造りだろうか。梁のかかる高い天井には、ゆっくりとプロペラが回り、一つ一つが手作りのようなテーブル席がゆったりと配されている。奥の一角には暖炉があり、後ろに心地よく流れるジャズのBGM。和とモダンさが入り混じったような、不思議で心地いい空間・・・。
置かれていた品書きは、和紙に一つ一つ手書きされたもの。
開くとまず、
「白いのもそば、黒いのもそば 腹は満たせなくとも、時を満すそば屋デ アリタイ」
という文字が書かれ、ご主人の言わんとすることが、なんだかちょっと伝わってくるように感じながら、ページをめくる。
蕎麦は、「せいろ」と「古典そば」の二種。これが食べたくていたので、迷う事なく私は「古典そば」を。それと「野菜の天ぷら」に、彼は「せいろ」がいいというので、それをお願いすることに。
そうこうしている間にも、次々にお客さんが訪れ、常に席はいっぱい。それでも、奥の大テーブルを除いては、相席にしないのも、ここでの時間をゆっくりとすごさせてくれる配慮だろう。忙しそうな空気がまるでなく、ゆったりとした空気が流れ続け、お客さんも皆、ゆっくり腰を落ち着けて待っている。
BGMの曲に浸りながら、しばし待ち・・・、ようやく我々の目の前にも「野菜の天ぷら」が置かれる。
「お二人で一皿で十分ですよ」とおっしゃって下さった天ぷらは盛りだくさん。かぼちゃ、エリンギ、インゲン、牛蒡、山芋、さつま、ナス、ニンジンにエリンギ・・・。それに木の葉のような団扇のような美しい飾りが掛かった天ぷらは、見るからに美しい揚げ具合。
口に含むと、一瞬びっくりするくらいに、カリカリに揚げられた天ぷら。ここまで、薄くカリっとした天ぷらは珍しい。それがとても心地よく、しかも素材の旨さを十分に残し、いや、さらに旨味を引き出したような天ぷらで、こ、これは・・・美味しい 。
添えられた粗塩でもよし、別に出された天つゆもよし、と一つ一つすべてを堪能できるもの。
そして・・、最後に、この団扇のような天ぷら(?)を、半分ずつ割って頂くと・・!こ、これが旨いっ
ただの飾りなんかではなく、衣を細く垂らして形作ったのだろうか、中に混ぜ込められた見目にも美しいパセリが、又風味よく、何も漬けずとも味わいのある天ぷら。
この食感、この味わい、おかわりしたくなってしまうような不思議な天ぷら・・・。
余韻に浸りながらさらにしばし待ち、まずは彼の「せいろそば」が出される。
長方形の木箱に盛られた蕎麦は、ほんのり緑がかった丹精な細切り。
ひと掬いもらった蕎麦は、爽やかなのど越しの、なめらかな蕎麦。かみ締めるとふわりと、蕎麦の香りがゆっくりと通り過ぎる。
旨い・・・、と前でつぶやく彼の言葉がなんだかうれしい。
続いて、念願の、一日限定10食の「古典そば」。地元岩手の自家栽培した蕎麦を中心に石臼で今朝挽いて打ったという蕎麦。
こっちは、全く異なるどっしりとした三角の陶器の器にこんもりと盛られて出される。
盛られた蕎麦は、一目見ただけでそれと分かる蕎麦の粒子。その欠片ひとつひとつが繋がり、一本の蕎麦になっている・・・とひしと思わせる、粒が浮き出た表面。手繰り寄せると、香ばしさと青々しい草のような香りの入り混じったような香りが、ふわりと立ち込める。
その蕎麦に見とれながら、口に含むと、途端感じる蕎麦のざらつき。猛々しいような、野趣たけた舌触りが心地よく、口の中で感じるその楽しみ。ゆっくりとかみ締めると穀物独特の歯を包みこむようなもちっとした腰。
この腰、ざらつきが楽しくかみ締めていくと、清々しさを伴い、穀物の持つしみじみとした香ばしい風味がじわじわと、口中に広がる。添えられた粗塩をほんの少しまぶして頂くと、これに甘さが加わり・・、たまらなく美味しい 。素朴な蕎麦の風味をいっぱいに感じ、もう、いつまででも食べ続けていたい・・と感じてしまう。
汁は、こってりと丸みのある深みのあるもの。これと頂く蕎麦もまた良く、ふっとため息をついてしまいそう。
待たされた時間もすっかり忘れてしまう、幸福感。
その頃合を見て、急須型の湯桶で出される蕎麦湯は、柔らかく白濁したクリーミィーな味わい。汁に注ぎいれ頂くと、すっかり至福の心地・・・
ほっとしながら、食べ終わった直後というのに、又、あの蕎麦を食べたいと思ってる・・。
心から満足し、堪能しきった蕎麦。
ああ・・・、この蕎麦が食べられるのなら、又ぜひここに来たい。と。
出来ることなら、この蕎麦を打つご主人とお会いしたかったところだけど、途切れなく訪れるお客さんでお目にかかれなかったのが、とても残念・・。
又、ぜひ、来たい。。
頂くことができた、それが何よりもうれしくて・・・
ご馳走様でした~・・・
今度来る時には、ゆっくりと蕎麦前と共に時間を楽しみに来てみたいな。。
*お品書き
せいろ 900円、古典そば 1,000円、釜あげ 1,000円、鴨汁そば 1,400円
野菜の天ぷら 800円、豆腐の味噌漬け 300円、鴨ロース 600円、蕎麦胡麻豆腐 500円、焼き味噌 500円
錦屋、田酒など 800円~
味のかくれ里
「二束の草鞋 地水庵」
岩手県磐井郡平泉町字衣関1-3
0191-46-5484
11:30~日暮れまで(売り切れ)
火・水定休(祝日営業)
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ご無沙汰してました・・・。
絶賛、やはり!。私も数年来の念願がやっとかないました。
ここはいいです・・。
でも、そのご友人が羨ましいです。ご主人と飲んでるなんて~。
確かに、「九つ井」からは、無理ですね(爆)
私も、又、ぜひぜひ伺いたいと思っているところです。
今度は、電車で行こうっと(^^;;
車で東京から行くとは、すごい行動力ですね(ダンナが)。
三年ほど前に、「地水庵の店主と飲んでるから来る?」と知人からメールがあったのですが、場所が横浜の「九つ井」だったので間に合いませんでした。
近くの温泉を予約して、酒を楽しみたい蕎麦屋ですね。
こちら、駅からそんなに遠くない場所です。
も、もし、お知り合いだとしたら・・・
う、羨ましいです!
ぜひ、訪れてみてください。
時間をたっぷりととって、行かれるのをお勧めします。
>デッカード
????、ええっ、わ、解らない・・(汗)
えっと、はい♪
三角でしたです(^^)。
衣関にこうしたお蕎麦屋さんがあるとは、
さすがに10年も帰省しませんと変わるものですね(-。-;)
先日都内で結婚式をし平泉の母と
これまた10年ぶりにお会いしましたが
変わっていました。。。
このお蕎麦屋さんもしかすると知り合いの方かもしれませんので母に聞いてみます♪
デッカードもこれは流石に2つで充分ですよ
ってあれはうどん屋ですね(解り辛いか
しかし、三角ですねぇ
あの「古典そば」。今、思い出しても、又食べたい・・・。
天ぷらも、今まで食べた中でも、ダントツの美味しさでした。
あの一言文・・、
そして、壁にかかった言葉。
いつか、ご主人とお話できたらいいな、と、夢見ています。
サブ店名の「二束の草鞋」写真の品書きの言葉から、なんとなくわかりました。
旅先でこんな素晴らしいお蕎麦に出会うとは、yukaさんの調査力と感に脱帽です♪
うふふ、そうそう前沢牛、米沢牛・・、目白おしですよね~。
一応、旅館では食べてきました(笑)。
この天ぷら、ヤバイくらいに美味しかったんです!
コメントありがとうございます!
米沢。村田・山形・・・、私も走ってきたルートですが、蕎麦屋だらけですよね♪
一週間かけて・・、かなり回られたんだろうなあ、と羨ましく思います。
山形だけでも、一週間いなくちゃ、とてもとても満足できないくらい(^^;;
こちら、とてもよかったです。
もし、行かれる機会があれば、お勧めします。
平泉でしたか・・・・・。
前沢牛、水沢牛しか思い浮かばない肥満体でしたぁ~~(笑)
しっかし、野菜天、おいしそう~~~(^¬^)
建物の雰囲気も良さげで、尚且つ「古典そば」が美味しそうですね。
東北は15年ほど前に一週間ほど掛けて、米沢・村田・山形・酒田・鶴岡と回りました。
その時の資料が無いので、蕎麦の細道には取り上げていませんが、又 行きたいな~と思いました。
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