思えばおおよそ10年ぶりの店内は、記憶のまま変わりなく、
ゴミ一つない清潔さに、凛然とした簡素さ。
シンっとした静謐さが店内の隅々にまで満ちている。

そっと足を踏み入れば、すぐに「いらっしゃいませ」
と、暖かな声で迎えられ…



奥のテーブルに腰を下ろし、出されたお茶を頂きながら
置かれていた品書きを手にし、早速お願いした「立山」の熱燗。



程なく出されたお酒は、風情ある南部鉄瓶。

猪口に注ぎそっと口にしてみると…、これがぴたり
熱燗といいつつ、程良い加減の人肌ぬる燗、
きちんと計って燗して下さったのだろう、
優しく柔らかく、お酒の旨さがふわりと広がる、絶妙の温度加減。

さすがだ…。



うれしく口に含み、充てにもなにか…と品書きを眺め、



お願いしたのは「茄子田楽」。



さっと素揚げされた輪切りの茄子に、たっぷり盛られた蕎麦味噌。
皮目はパリっ、中はとろりとした茄子の果肉に、
蕎麦味噌と共に口にすれば、甘みが濃く、これは美味しい…

しばし、ゆるりとたゆたう空気の中、
疲れをいやしながら、そっと一人憩うひと時。

そろそろ、お蕎麦を頂こうか…





改めて品書きを手にし、ぱらぱらとめくりるも、
10年ぶりに訪れたお店、やっぱり三色蕎麦を頂きたい。

…とお願いしたら、…残念 。
季節の「レモン切り」はもう、終わってしまったそう。
ならば、、とせいろと田舎の「二色蕎麦」でお願いする事に。



程なく出された、舟形の蒸篭に盛られた「二色そば」。



「せいろ」はかなり細めに断たれた、乱れなき端正な細切り。

手繰り口にすれば、きりりとした気品ある、たおやかで心地のいい腰に、
するりと、ふっと消えるように落ちる喉越しの軽やかさ。
手繰るうちに次第に広がってくる、香ばしさに甘み…。

正統なる蕎麦、江戸ならではの粋溢れ、
汁はしっかりとした濃さに、円やかな出汁。
添え口にすれば、さらに蕎麦の旨みがじわりと増す。

旨い…
老舗の威厳に風格感じる蕎麦を、しっかりと味わい…



一方の「田舎」はかなり太めの、どっしりとした挽きぐるみ。



口にすれば、むちむちょっとした、固めの食感。

手繰るというよりも、もぐもぐ噛みしめる蕎麦で、
個人的に、このタイプはやや苦手なのだけど、
噛みしめているうちに、じわりと広がる香ばしさは、確か。

でも…、せいろをもっとたべたかったかな…。
などと思うも、久しぶりに訪れらた事が、密かにうれしく、



すっと出された蕎麦湯を注ぎ入れれば、
この時間、しっかりと白濁した風味ある美味しい蕎麦湯。
じっくりと蕎麦湯を頂きながら…



夕方からの予約が入っているのだろう、テーブル席。
これから賑わう前の、ひと時の静寂に包まれ、
ほっと、寛がせて頂いた、ささやかな幸せ。

ご馳走様でした～

いつまでも変わらずに残されている、
そして、いつまでも変わらずにあっていて欲しい…、
素晴らしき、江戸情緒のこのお店も。

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