駒込「小松庵」で永い間修業され、
慈久庵の焼畑蕎麦の作業も手伝って来られたご主人が、
年来の計画の末、去年末お店を出された、とお聞きし…
行ってみたいな~と、年越しながら思っていたところ。
開店してそろそろひと月の今夜、お友達と伺ってみる事に
東十条駅南口の坂を降り、いくつかの店が並ぶ下町の商店街。
その中程に、周りの空気から一線画した、
匂い立つような白木壁に囲まれ、風情のいい、粋な和の趣溢れた佇まい。
夕闇の中、洩れこぼれる柔らかな灯りに誘われるようにお店へと…
東十条 「一東庵(いっとうあん)」
そっと暖簾を潜り入ると、…わあ、これは何て素敵な、気持ちのいい空間 。
肌木の柔らかな質感が店内の至る所に染みわたり、
すっきりとして、清潔感溢れた、ゆったり広々とした店内。
ぐるり周りを見渡せば、あっ、あれは…!
懐かしい、じいちゃんの家にあった、昔むかしの手回しの脱穀機。
これを回し、巻き上がるもみ殻にまみれた幼き頃の記憶が彷彿と蘇る…。
思わずお聞きすれば、ご実家にあったものだそう。
こんなにきちんと残されていたなんて、と感動に思わずじ~ん 。
(亡きじいちゃんちには、きっともう無い)
この新しい店内に、懐古の良きノスタルジアがぴたりとはまり、
静かに息づいている事に、何とも言えない心地感じ…
さてさて、早速まずは、蕎麦前を 。
品書きの中のお酒のメニューに、黒板書きされた品書きを交互に眺め、
今日のこの寒さ、まずは熱燗を頂き暖まりたい。
と、お勧めをお聞きし、出して頂いたのは、「雪男」。
卯の花に昆布煮の二品添えて出されるのもうれしく…
箸を手にしようとしたら、、この箸置き、かわい~い。
と、熱燗を口にし、ようやく徐々に、ほおっと体も暖まり…、
お料理をお願いしようと、品書きも吟味。
「今日のおすすめ」だろう、別に添えられたお料理に、
中には、定番の一品料理もずらりと並び、数豊か。
どれもが手頃な値段で並んでいるというのもうれしく、
あれこれと選んで、幾つか注文 。
まず出されたのは、瑞々しい「お漬物」。
さすが「小松庵」ご出身、漬け具合もぴたりで、どれもがとても美味しく、
漬け物好きとしては、とてもうれしい
「牛蒡の掻き揚げ」は、こんもりドーム型で、見るからにカラリと揚げられ、
箸を入れると、さくさくさくっ…と崩れふわりと軽やか。
牛蒡の旨みが実に濃厚で、これは熱燗にぴったりだ 。
「揚げ出汁豆腐」は、かわいい蓋付きの器で出され、
これも周りがカラリ、中は柔らかな絹越し豆腐。
引かれた出汁の風味が素晴らしく、汁まで飲んでしまった程 。
ひとつひとつ、どれもが丁寧に作られ、職人の技が光るお料理に、
さすが、永年「小松庵」で修業してきた方だ、と改めて。
…と、ふとご主人が顔を出して下さり、見せて下さった二種の蕎麦の実。
後輩の方が青森で自家栽培されたという蕎麦の実(右)に、
今朝慈久庵の届いたばかりの蕎麦の実(左)だそう。
興味深く眺めていると…
「すみません、今日、昼で十割蕎麦が終わってしまって…」
ええええ~っ、そ、それは残念すぎるぅ…
と思っていたら、これはうれしい、その青森の蕎麦の「蕎麦がき」サービス 。
もっちりとしてまったり、ふわんとしみじみとした穀物の香りが漂い、
優しく口に転げる蕎麦の粒の感触が心地いい。
うんうん、これは美味しいなあ…
と、味わっていたら、さらにうれし~いっ 「慈久庵」の粗挽き蕎麦がき。
これはすごい、目の前に置かれた瞬間、見入ってしまう超々粗挽き。
ごつごつぶつぶつ埋まった蕎麦の粒の姿に、歓喜し、
口に含むと、ダイレクトに感じる粒々のぷりぷり感。
この感触をゆっくり転がし楽しんでいれば、
ぐわ~っと大地の力強さを感じる濃厚な香ばしさが、口から鼻に抜けて行く。
なんて、濃い味だろう…、これはすごいっ。
早速お酒も追加で注文、「八平衛」の熱燗をお願いし…
慈しむように味わう二つのそばがき。
…と、「試作品なんですが」と出されたのが、
これが、私の好みど真ん中、「アボガドと豆腐の味噌漬け、湯葉の和えもの」
とろりとしたアボガドに、まったりと湯葉が絡まり、
クリームチーズのような豆腐の味噌漬けの風味が広がり、これは旨いっ
これっ、是非品書きに入れて欲し~い。
と、これには冷酒、「雨後の月」を合わせて楽しみ…
最後に一品、珍しい「豚肉大根プラム煮」も。
さっくりと柔らかく、プラムの程良い果実の酸味が後味爽やか、
甘みといい、豚肉の旨みがよく引き立ち、これは美味しい 。
オレンジ煮というのは食べた事があったけど、プラムもいいなあ…
と、すっかり「一東庵」さんのお料理を満喫し、
いよいよお蕎麦を頂こうと、改めて品書きを開き…
蕎麦は、二八もりに十割の二種に、
両方食べられる「二種もり」があるのはうれしい限り。
冷たいお蕎麦、暖かいお蕎麦も一通り眺め、
今日は残念ながら十割は売り切れなので、まずは「もり」と…
やっぱり「かけそば」も食べてみたい、と二人で取り分け頂く事に 。
まずは、猪口二つ添えて下さり、目の前に置かれた「二八もり」。
笊にすらりと盛られた蕎麦の、この美しさ…!
まるで、乙女の頬のようにきめ細やかな滑らかな麺線を描き、
一糸乱れぬ端正に切り揃った、凛々しい姿。
手繰り上げれば、ふわりと広がる香りは、ふっくらとして円やか。
口に含めば、しっとりしなやかな心地のいい腰があり、
噛みしめれば、これもじわ~と広がる豊穣な穀物の味わい。
するりと落ちる滑らかな喉越しの後に、ふっと戻ってくる香ばしさ。
つなぎ感を感じさせない蕎麦の、純然たる蕎麦の旨さに、
途端に夢中、これは、美味しい 。
と、二人で手繰ればあっという間、頃合い見て出された蕎麦湯は、
しっかりと白濁して熱々のもの。
もり汁に注ぎ入れれば、まろやかで雑味なく、
それぞれの出汁が見事に調和し融合した汁の旨さを改めて堪能し…、
ほっとひと息入れた頃合いに、続いて置かれる「かけそば」。
これが又、なんて美しい、琥珀に澄んだ清冽なかけ汁。
口に含めば、すっきりとして優しく、
上品な鰹の風味がじわ~っと体に染み入る、きれいな味わい。
飲んだ後の体にこれが、とてつもなくたまらない…
中の蕎麦を手繰れば、温蕎麦らしい、ほろりとした蕎麦が又美味しい。
汁を吸い、蕎麦の香ばしさと合わさる醍醐味溢れ、ぷつんと喉を落ちて行く。
ん~この「かけそば」、これは美味しい~
後はもう、夢中で手繰り手繰り、汁もすっかり飲みほして…
最後のお楽しみ、「そばがきぜんざい」は蓋付きの器で。
これが、又とても素晴らしい!。
先の蕎麦がきとは全く異なる、なめらかでとにかくふわっふわ。
空気感溢れ、口に入れた途端にほろろ・・と溶けてしまう。
その間に、ぐわっと再び香ばしさが込み上げ、
そこに、ほっこりと炊かれた小豆が絡まる。
甘さ加減も程良く、この蕎麦がきぜんざい、大好き~。
と、すっか~りお腹も一杯、大満足。
まだお若い精悍なご主人の蕎麦に対する真摯な姿が頼もしく、
寄りそい、にこやかに支える奥様の暖かなもてなしが、気持ちいい。
「この石臼も実家にあったんです」と見せて下さる石臼が又見事で、
しばしあれこれお話しさせて頂いた、素敵なひと時 。
この看板もご自分で掘られたそうで…
なんだか、もっといろいろお話ししたい心地を押さえつつ、
ああ、又素敵なお店に出会えたと、心底幸せな心地でいっぱい。
ご馳走様でした~
是非又伺って、今度は、十割蕎麦も食べに来ます。
「一東庵」
北区東十条2-16-10
03-6903-3833
11:30~15:00 / 17:00~21:00
11:30~15:00(日曜)
月曜定休
禁煙
- 関連記事
-
- 東十条 「一東庵」 三つの「そばがき」に感動の五つの蕎麦 (2017/05/09)
- 東十条 「一東庵」 雪空の下の感動の蕎麦三昧 (2016/11/25)
- 東十条 「一東庵」 馬刺しに蕎麦がき、感動の5種の蕎麦 (2016/06/14)
- 東十条 「一東庵」 極上の「トマトの冷かけ」 (2015/08/19)
- 東十条 「一東庵」 感動の嵐再び、絶品5種の蕎麦 (2015/06/16)
- 東十条 「一東庵」 感動の「手挽きそば」季節の「さくらそば」 (2015/03/25)
- 東十条 「一東庵」 感動の嵐 5種の蕎麦 (2014/05/13)
- 東十条 「一東庵」 江戸の粋ある蕎麦コース (2012/07/11)
- 東十条 「一東庵」 (2012/02/03)
- 田端 「玄庵 昌」 (2011/01/13)
- 十条 「まつ屋」 (2008/12/12)
- 上中里 「ひろと家」 (2008/11/27)
- 十条 「出陣」 (2008/08/18)
- 田端 「田端 玄庵 昌」 (2007/12/10)
- 田端 「田端玄庵 昌」 (2007/10/25)
えっ、今は「休止中」のあのお店とは、、どこかしら…σ(゚・゚*)
臼でも丸抜きが・・
でも、すごく手間のかかる仕事のよう。とはいえ、それが楽しいのかもしれないですね。
だって、殻から自分の手で調整、作り上げるんですもの。
いやはや、よしのさんの熱意には脱帽です。
ますます、よしの製粉の蕎麦に会いたくなってしまいます~。
ということ、過日の「野饗」さんのところで食された
蕎麦を見て、改めて納得しました。
一般に田舎だと、全体に茶色がかってしまいますものね。
比べて、「慈久庵」さんのは透明感がある美しい打ち
上がりになっています。
そこで、丸抜きなのにあの外殻の細かい欠片はどのように、
と思ったとき、ふと今は休止中の「あのお店」のことが
頭に浮かびました。
…いやいや、勘違いかも知れません。
それと、たまにしかやらないですけど、臼で丸抜きを得る。
効率は非常に悪く、「慈久庵」さんの写真のように割れて
しまう確率は高くなりますけど、特別な機械が無くても
丸抜きは得られます。このとき、粗挽きで篩って残る欠片と
いうのもなかなかの混入です。(大きいけど)
粉挽き回数が少なすぎて経験が足りないんだと自覚してます。
でも、結構遊べる(笑)ので楽しいです。
それはそうと、慈久庵さんの蕎麦は、しかしながら、玄挽きじゃなくて、丸抜きなんですよね…
と言う事は、これを丸抜きにしているのか、それとも玄挽きにして篩いわけているのか…
今度聞いてみようかしら。
でも、あの味わいを考えると、慈久庵の玄挽き蕎麦ってのも食べてみたいという気持ちもむくむく…
私もどんどん我儘になっていきそうで怖いです(^^;
それはそうと、蕎麦がきはもちろん大好きだけど、やっぱりそば切りを食べたくなってしまう、私です。
何だか、視覚を飛び越えて「ガッツ~ン」と襲って来そうな迫力
です。
当方もこういう蕎麦掻きが出来れば、
「敢えて蕎麦切りに拘ることも無かろうか~~??」
なんてええっ加減に考えているのです。
(以前は当方の中における「慈久庵」さんは、そんなに印象良く
なかったんですがね~...(汗;;
さて、まだ考えてるんですが、丸抜きをするのは「慈久庵」さんの
本意ではないのでは?・・・、なんて余計なことも。
どうでもいいですが、玄蕎麦ごと挽きぐるみすれば、中間過程を省略
できるし、ストレート!かもしれません。
そして、当方も「玄蕎麦を石臼で丸抜きする」ってのもやってみて
おりますが、何でもかんでも丸抜きするよか、玄蕎麦挽きを篩い分ける
ことが面白いのではないか~…なんてー(笑)
最近ちょっと。
ちゃんと名前が貼られてました(^^)。
確かに、これを置くには~
じいちゃんちは、蔵があったから、そこにあったけど、一般家庭でこれを置くには、スペースが難しいかも。
ミニチュア、私も欲しいなっ。
(ただし、本当の本当のミニチュアであればですが…)
さて、蕎麦の実。
そうなんです、実際目にすると、青森の方が粒も揃い、青々しくぷっくりとして美しいんです。一方の慈久庵の実は、大きさもばらつきがあるんですが、でも!青森の蕎麦より大きいんですよ、粒が。
天日干し手刈りは、どちらも一緒。
して、蕎麦がきにして食べた味が、なぜこんなにも違うのか…!
衝撃でした。
もちろん、青森の蕎麦がきもとっても美味しかったのに、慈久庵の蕎麦がきを食べた瞬間に、うっ、と思ってしまう程。。
奥深いです。
本当に本当に奥深いです…。
丸抜きの実の写真を見せていただき、ありがとうございます。
右側の青森産の実が綺麗な緑色と整った形であるのと比べ、
「慈久庵」さんの実が割れているのが目立ちます。
素人の考えだと、「慈久庵」さんのは天日干しでかなり入念に
干されているのではないでしょうか、と。
乾燥が進むと、割れやすいのでは?
また、丸抜きする方法や工程の違いもあるかもしれません。
正直、その辺の良し悪しも分からないのですけど…
本当に興味深いです。
多分当方なら昼からマタ~リ参るでしょう。
さて、
>あっ、あれは…!
>懐かしい、じいちゃんの家にあった、
>昔むかしの手回しの脱穀機。
という同店のインテリアですが、ご存じ「唐箕」で、
穀類全般の風選に使われる道具。
当方ガキの砌、専業農家の当家にもありました。
これが欲しいんだけど、御覧の通りの大きさです。
置き場がない...orz
そこで、近所の大工さんに昨年暮れ頃にミニチュア版を
作ってください!とお願いしました…
…が、その後まだ音沙汰が…
(何故かムカゴは速攻いただいたんですけどね 笑
これまで唐箕は、原理を同じくする最近のバージョンを
ご近所で(2種類)お借りしてきましたが、やはり自前で
揃えたくなるんですよ~ 癖なんだよなぁ...
→ yuka (04/08)
→ yuka (04/08)
→ sherbetsST (04/02)
→ gun (03/27)
→ yuka (03/19)