骨折で延び延びになってしまっていた、2年越しの夢、京都へ・・。
何日も前から、興奮して眠れない夜をすごしつつ、浮いてしまいそうな足取りで、念願の「京都一人旅」へと新幹線に乗り込む。
静岡を通り過ぎる時、車窓から見える富士山の美しさに、一人ため息。
・・・が、岐阜あたりに差し掛かると一転して吹雪いている車窓からの景色を見つつも・・、なんとか昼遅くの京都にのんびりと到着。すぐに、ホテルへ向かい一旦荷物を降ろす。
そして、腰を下ろす間ももどかしく、すぐに地下鉄へ。
下車した「北山駅」を、はちきれそうな気持ちで地上へと。と、な、なんと、雪が降っている
お日様が輝く中で、ふわふわと雪が舞い落ちてくる景色は、異国の絵本の中のような幻想的な光景。通り沿いの、素敵な喫茶店や、パン屋さんが並ぶ、ハイソな雰囲気の漂う道沿いを、私も雪とたわむれながら、ゆっくりと進んでいくと・・・、
ふと目の前に、このお洒落な雰囲気の通りからはちょっと異質な、素朴な木の看板に行き当たる。
こ、ここだ・・・
念願のお店、京都に来たらまず真っ先に訪れたいと思っていたお店・・・。
看板の後ろに立て掛けられた品書きを見ながら、入り口へと入っていくと、この界隈から切り離された、どこかの山奥でふっと出会ったかのような草庵を思わせる、禅味あふれた佇まい。
京都北山 「蕎麦屋 じん六」
深く息を吸い、暖簾をくぐり店内へ・・・。
入った先は、天井が高くとられ、無駄なものは一切ないようなすっきりとしたひとつの空間。白木で造られたどっしりとしたテーブル席、奥の小上がりと上品にまとめまれ、凛とした空気に満ちている。
時すでに3時すぎ。
他にお客さんもない中、奥の中庭を見渡せるテーブル席に腰を下ろす。
ああ・・・、なんて寛いでしまえるんだろう。柔らかく静寂した空気の中で既に憩ってしまってる。
程なくして、お茶を出してくださったお弟子さん(かな?)に、まずは、お酒をお願いする。
そっと出されたあては、彩りも美しい「ピーマンの味噌和えに、ニンジン、大根の浅漬け」の盛り合わせ。
片口の酒器に注がれたお酒を、そっと一口頂きながら、庭の蝋梅を眺めていると、日常の煩わしさも忘れてしまう
昼ヌキの体に染み渡る~・・・
と、寛いでいるとご主人が出てきてくださる。
ああ、この人が・・・、と思ってしまうような、気品ある穏やかな面持ちのご主人の、柔らかい口調が心に優しく染み入るよう。
「そばがきでもお作りしましょうか」と、おっしゃって下さり、喜んでお願いすることに。
ほどなくして出された「そばがき」は、ほかほかと湯気を立て、生まれたての肌のようなつやつやとした姿。
目の前に置かれた瞬間に、ふわ~と穀物の濃い香りが辺りに漂う。
香りにうっとりとしながら、さて、と箸を入れ口に含んでびっくり 。
なんて、歯ざわり。まるでババロアと言おうか、むっちりとしてふわふわ 。
生麩に近いようなむっちりプルンっとした歯ごたえが、非常~に心地いい。
しかも、蕩けて行く間に広がる、香り同様に濃い蕎麦の風味。途端に口の中は蕎麦の風味でいっぱいになってくる。こ、こんな蕎麦掻は初めて。
添えられている山葵の質の良さ、出された白醤油仕立ての出汁もとても美味しい。だが、何も付けずとも、十分に濃い味わいに、一口毎に感動しながら頂くそばがき。
食べてしまったのが寂しいくらいの思いながら、ここの「鰊煮」も是非頂いてみたかったので、それもお願いすることに。
程なくして出された「にしん煮」は、ぴかぴかと照り輝く美しい半身の姿。
箸を入れると、ほろほろっとこぼれるような身の柔らかさ。口に含むと、ふわりとした歯ごたえの鰊は、上品な味付けで炊かれすみずみまで味が染み込み、ジューシーな仕上がり。
こ、これは・・、美味しい 。
話に聞いて想像していた以上の美味しさに、ほころびを隠せない。
他にお客さんもなかったこともあり、ご主人がぽつぽつと蕎麦についてのお話などして下さり、この鰊にお酒でゆっくりと過ぎてゆく心地いい時間・・・。
話の流れから、ではお蕎麦を・・・、となり、異なる三産地の蕎麦を食べられる「蕎麦三昧」をお願いする。
柱には、「本日の蕎麦」が書かれ、今日は北海道、福井、茨城とのこと。
「薬味は、おろしと山葵とどちらにしましょう」の言葉に、我侭にも両方お願いすると、まずは、蕎麦猪口に、徳利、薬味二種が出される。
ちょっと舐めてみる汁は、鰹が香るすっきりとした辛汁。それが最後の、ほんの最後にすっとした甘みを残していくのが心地いい。
「一秒たりとも違える事は出来ない」と仰っていたご主人の、真剣な姿で蕎麦を茹でる姿を見つつ、出された一枚目は「茨城の常陸秋蕎麦」。
きりっとした面持ちの細切りの蕎麦は、出された途端に立ち込める、濃く深い香り。
この香りだけで、満足してしまいそうな蕎麦を手繰り、口に含むと、穀物感のあるしっかりとした腰。かみ締めると、途端にじわ~と広がる、滋味深い穀物の持つ独特の味わいにくらくらしてしまいそう 。
さ、さすが・・、「じん六」さんの蕎麦と、うっとりしつつ手繰るのをやめられない。
続いて二枚目は「北海道 牡丹」蕎麦。
はっとする程、鮮やかな緑色の蕎麦は、これもつやつやと輝く。
手繰り寄せると、常陸秋蕎麦とは又違う、爽やかさの加わったような清々しさのある蕎麦の香り。
噛み締めると、やや優しい甘みを感じる味わい。ん~、これも美味しい 。
最後の三枚目は、「田舎」と書かれている「福井 丸岡」の蕎麦。
これも又、美しい翡翠がかった蕎麦の色。
手繰り上げると、上品な透明の蕎麦の粒が表面を覆った粗挽きの姿。それがうれしく、口に含むとしっとりとした腰。粗挽きとは言え、滑らかなのど越しの蕎麦は、噛み締めるとこれも、爽やかさを含んだ濃い穀物の風味がいっぱいに漂う。
一枚一枚、異なる器で出される持て成しも楽しく、すっかり大満足 。
と、これだけでもう、十分に満足してしまったのだが・・・、
どうしても、こちらの温かい蕎麦を食べてみたいという気持ちを抑えられず、ご主人にお願いして半分の量で「かけ」を作って頂くことに。
「揚げ玉をお付けしましょう」とおっしゃって下さる配慮を、又うれしく思っていると・・・
まずは、目の前には、見るからにさっくさくの「揚げ玉」と、これも美しく切りそろったふわりとしたさらし葱、そして京都らしい「一味」が置かれる。
そして出された「かけそば。透けるような透明感のある汁に、流れるように横たわる蕎麦。
まずは一口、このかけ汁を口に含むと、まず真っ先に感じる鰹の風味。すっきりとしながらも、きちんとした味わいがじわりと感じる、極上のかけ汁。お、美味しい・・・
まずはそのまま、この蕎麦を頂くと、もっちもちとした食感。冷たい蕎麦とは又違う、このもちもちさがたまらなく心地いい。暖かい汁の中でもしっかりと繋がり、さらに違う魅力が引き出された蕎麦。
そして、ちょっと残しておいた鰊を乗せ、汁と絡めながら頂くと、ふわりと汁と一緒に蕎麦と絡まり、これも極上の味わい。
さらには、サクサクの揚げ玉と、ふわっとした葱を加えると、揚げ玉のコクが溶け出し、揚げ玉好きとしてはたまらないおいしさ。
ほっとしているのを見計らって出して頂いた蕎麦湯は、なめらかクリーミィの白濁したもの。これを注ぎいれ、鰹の風味高い上品な森汁に加え頂くと、心から至福の心地に浸ってしまう。
ゆっくりと穏やかな口調のご主人と、さらに続く蕎麦談義が又楽しく、いつまでも話しをしていたくなってしまう思いにまで・・・。
いつしか、すっかり外は暗闇に。
立ち去りがたい気持ちに強くかられながら、席を立つ。
暖簾をくぐり出、外まで見送って下さるご主人の姿がいつまでも心に焼きつきながら、又絶対に訪れよう、と心に誓う。
ご主人本当に、ご馳走さまでした~
近くにあったなら、ちょくちょくと足を伸ばしているだろうと思われる、心温かくなる憩えるお店。
すでに、京都に心が奪われ始めているのを感じながら、又雪の降り始めた道のりを駅へと・・・。
*お品書き
蕎麦三昧 1,250円、にしんそば 1,350円、鴨汁そば 1,550円、おろし 1,000円、山かけ 1,000円、わかめ 850円、ざる 950円、天ぷらそば 1,500円、天ぷらおろし 1,650円など
そばがき 600円、ごま豆腐 300円、にしん煮 450円、おろしそば定食、ざるそば定食、山かけ定食 1,550円、
ビール 500円、吟醸酒 500円~
「蕎麦屋 じん六」
京都市北区上賀茂桜井町67
075-72-6494
11:45~19:00
月曜、第4火曜定休日 禁煙
お店のHP
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本当に…、
今年早々に、衝撃のニュースでした。
残念でなりません。
もう一度伺っておきたかったです。
じ~んと感動してしまっています。
まるで、映画のようなお話し。
ハリーさんが、どんな気持ちで「じん六」ですごしたかが、自分の事のように思われ、文字を夢中でたどってしまいました。
いろいろな事があるのですね…。
若き日の焦がれていた人との再開だけでも、ぞくぞくしてしまいます。
かの日、彼女は喫茶店に訪れたのか、
その時の、彼女の気持ちはどうだったのか…
ハリーさんが去られた後の、彼女の気持ちなどなど、
あれこれと想像してしまっています。
又、お聞かせ下さい。
ありがとうございました。
その中に、当時はげしく焦がれたひとのその後をしる、別の女性が混じっていました。京都で過ごしていた四年目のある秋の日に、こころ堪えられず心情を吐露した手紙を便箋三枚にかいて投函しました。銀閣寺道という交差点にあった、とある喫茶店にきてあって欲しい、ともとめたのです。その逢瀬は、少々の手違いと、わたしの意気地なしのために実現せず、そのままそのひととは何事も起こる余地の無いまま、わたしは卒業して京都を離れてしまいました。二年後その人が結婚した、との年賀状がきて最後になりました。
「じん六」の席に参加した女性によると、そのひとはその後子供を産み、いまも京都の郊外に住んでいる、とのこと。こころが揺れたのは、その一人息子が数年前、三十歳で亡くなっていたこと。死去のいきさつなど詳しいことは分からずじまいでした。
彼女からおそわったそのひとの住所を携帯に入れながら京都からもどる阪急電車は、薄暗くこころ落ち着かない道中でした。「じん六」でなにを食べたか、どんな蕎麦だったか、正直なんにも記憶に残っていません。またそのうち、気を取り直して出直してこようかな、という思いと、しかしそのときは、そのひとに電話を掛けたくていたたまれなくなるのではないか、と迷ってしまうここ数日です。
夏は暑いけど、冬は寒い京都。
私も又行きたいと思っているところです。
が、なかなか…(猫が…)。
ご主人と回られるなんて、羨ましい限りです(u_u*)~。
縁あって2回も行くことができましたが^^;
今度はyukaさんと同じ「冬」に伺ってみたいです。
羨ましい・・・。
私も、こちらには又絶対伺いたいと思っているところです。
そうそう、ちょくちょくと訪れられないところに、恋しさが又ひとしお。
いい時間をすごされたようでよかったです(^^)。
最初、京都行きが決まった時にyuka さんは京都のお店にも行かれてるかも・・・とこちらのブログを拝見し、直感的に「ここに行きたい・・・」と思いました。まさに「京都に来たらまず真っ先に・・・」の状態でした。 昼時だったのでお客さんもひっきりなしでしたが、いい雰囲気だったので寛いでしまいました。注文したのはもちろん「蕎麦三昧」です。又絶対に来よう・・・と誓いましたが、しばしば伺えない分、いとおしいお店です。本当にありがとうございました。
お写真、きれいですね~。ご主人もとてもいい笑顔で・・・。
同じ席に座ってくださったなんて、なんだかうれしいです。
ブログにも・・・、ありがとうございました。
他にも、どちらかに行かれたのかしら?
無理のない日程の中で、凝縮した日々をすごすことができ、又とない、至福の京都一人旅になることができました。
「じん六」さんは、
ぜひ・・・
京都に訪れる際には、尋ねて欲しいです。
できれば、昼時、ずっとはずして。。。
...いえ、良い旅路だったようで何よりです♪♪
こちらは太野さんをも唸らせた蕎麦屋さんですよね??
蕎麦は三たてが旨いという常識を打ち破られたという店主の
蕎麦の保存方法は素晴らしく、何でも2年前の蕎麦でも新蕎麦より
美味しく提供出来る程とか。。
蕎麦好きのyukaさんも唸らせたようなので、
一度は訪問してみたい恵比寿、夢のお店です♪♪ 溜息。。
実は、携帯から現地で辛汁さんのコメントを見ていて、うっかり削除してしまい、本当に申し訳なく思っていました。
それはそうと、
今回の旅行では、本当に辛汁さんのブログを参考にさせて頂きました。直前のアドバイスもとてもうれしく、プリントアウトして持っていたほどです(^^)。
「じん六」は、かなり遅いお昼に伺ったこともあり、貸切で、とてもいいスタートでした。
昨夜帰って来たばかりなのに、今・・
すぐ又、京都に伺いたいとの気持ちでいっぱいです(^^)。
貸切で ご主人とも話せるとは・・・
他のお店も楽しみです。
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