改札を出て、線路の下にずっと続くごちゃごちゃとした商店街を、都立大学に向かって歩く。延々と歩いていくと、景色も次第に閑静な住宅街に入り、突き抜けた目黒通りに、大きなダイエーが聳え立つ。確か…、この近くのはず。と、住所を頼って、ダイエーの横の細道へと向かうと、ふっと静かな通り沿いに、しっとりと落ち着いた店構えが目に入る。ここだ…
碑文谷 「手打そば 吉法師」
黒壁に、シックなえんじの暖簾が下ろされた、風格ある佇まい。
入り口の横には外から見えるガラス張りの打ち場があり、その横の扉を開け、店内へ。
午後1時すぎ。入った店内は、浮いたところのなく、しっとり落ち着いた空間。テーブル席が3卓のみの、思ったよりもずっと小じんまりとした作り。すでに、3卓のテーブル席は、埋まっていて、どうしよう…と、入り口で戸惑っていると、すぐに「いらっしゃいませ」と、にこやかに出迎えられ、「お二階へどうぞ~」と案内される。二階もあったんだ…。
お店の奥の階段を上りあがると、さらに静寂した空気の流れる二つのフロアがある。左側にはゆったりとした小上がりの席、反対側の小部屋には、これもゆったりとしたテーブル席がふたつ置かれてる。
小上がりの方には、お客さんが既にいらっしゃったので、この個室仕立てのような小部屋のテーブルに腰を下ろすことに。何とも静かで落ち着いた空気に、すっかり寛いだ気分に浸ってしまう。
置かれている品書きを見ていると、すぐにお茶とお絞りを持ってきてくださる。肌寒いような心地もしたので、「ぬる燗を・・」とまずはお願いする。
程なくして、白磁の徳利に注がれてお酒が。にこやかに持ってきて下さる若い男の人がちょっと素敵
何のお酒だろう・・、ふわりとして、飲み口の優しいぬる燗を口にしつつ、お料理の品書きを改めて眺める。
おおっ、これは酒好きにはうれしいオツなメニューが揃ってる・・・。
ちょっと迷ってしまったが、お腹も空いていたので、今日は、ちょっと気になる「そば麩の田楽」を頼んでみることに。
ほどなくして出された「そば麩の田楽」は、かわいらしくお皿に一列に並べられて。
まずは、ちょいっと上に盛られた味噌を舐めると、こってり甘めの西京味噌仕立て。これだけでも、お酒のアテになってしまうようなまろやかさ。
続いて、一緒に口に運ぶと、もちっとした感触は、蕎麦掻と生麩の調度合わさったようなもので、これは面白い。かみ締めていくと、次第に溶ろけていく中で、蕎麦の風味がじわ~と広がる。これはいい。
しかも、中に混ぜられた蕎麦の実が、時々歯にあたる感覚が楽しく、お酒と共に味わい楽しめる一品。
十分に満喫した頃合いに、タイミングを見て花番さんが上がってきて下さり、「何かお聞きしましょうか」とお声をかけてくださる。
「せいろ」「田舎」「しらゆき」「変わりそば」の4種ある蕎麦だが、やはり初めてなので、今日は・・・、「せいろを」と。
ちょっと珍しい形の笊に盛られて出された「せいろ」は、グレーの細切りのピンっと張った勢いを感じさせるもの。
手繰り上げ顔を寄せると、清々しいような蕎麦の香りが、ふわりと立つ。
口に含むと、しっかりとした腰。せいろでも、やや挽きぐるみっぽさのある、素朴な穀物感を感じさせる腰。ちょっと不思議なぱきぱきっという食感が楽しく、噛み締めるとじんわりと蕎麦の風味が広がってくる。
しかも、滑らかな表面の切り幅にムラのない丹精な蕎麦は、のど越しもいい。これは・・、温かいつけ汁ででも、頂いてみたいなぁ。
汁は、やや甘みを含んだまろやかなもの。出汁、甘さ、辛さがとてもうまくまとまったような、どこにも角のないバランスよく調和され、これが蕎麦の風味をさらに引き立てているかのよう。
底下げになった笊は、見た目よりは、量もあり(でも少なめかな)、満足な一枚に。これは・・、次には「田舎」や「しらゆき」「変わりそば」も頂いてみたいなぁ。(二色や、三色があるといいんだけど・・・)
湯桶は、骨董のような鉄瓶で。
ナチュラルに白濁した熱々の蕎麦湯を、汁に注ぎいれると、のびのいい素直な汁が美味しい。
とろとろの蕎麦湯は大好きだけど、ぬる燗を頂き、食後のこのさらっとした蕎麦湯もいいなぁ、なんて思ってしまう。
この静かなで、落ち着いた空間に、すっかりゆっくりと寛がせて頂き、満足なひと時。
その上、花番さんの対応もとても心地よく、それが何よりもうれしい。魅力的な肴、そして、冷酒の品ぞろいも豊富なこのお店、いつか何人かでゆっくりと夜にも、伺ってみるのもいいなぁ、などとも思ってくる。
ご馳走さまでした と、告げると、厨房の男の方も、丁寧に挨拶してくださり、気持ちよく外に出ようとすると、入り口の打ち場で追い討ちを始めていたご主人も、丁寧に「ありがとうございました」と。
いいお店だなぁ・・・
こういう最後まで、心温かい対応は本当にうれしい。
また是非、伺ってみたいな・・・
*お品書き
せいろ、田舎 735円、しらゆき、変わり 945円、とろろ、辛味大根、なめこおろし 1,050円、天付せいろ 1,890円、天邪鬼そば 1,260円、月心そば(胡麻だれ)1,260円、花まき 945円、卵とじ 1,050円、山かけ 1,260円、湯葉そば 1,365円、鴨南蛮 1,575円、
長崎松浦鯖燻製 1,260円、自家製唐墨 1,260円、鮎の苦うるか 945円、鮭めふん、蟹の内子、鴨わさ 840円、エシャレット味噌和え、そば麩田楽 735円など、
日本酒多数
「手打ちそば 吉法師」
目黒区碑文谷4-2-3
03-3794-5253
12:00~15:00 / 17:00~21:30(L・O)
月曜定休日(月1回不定休有)
お店のHP
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それもふっと過ぎてしまう、いいお店ですよね。
私も、天邪鬼そばを食べに、又行かねば、と思っている次第です。
これは、やはり天邪鬼は、ぜひ頂いてみないと~・・。
20年以上も前・・・
まだまだ、自分の未熟さを思ってしまいます。
それはそうと・・
そうそう、もちょっと・・なんですよね(^^;;
「天邪鬼そば」は蕎麦喰い師さんの仰るようなお蕎麦だったと記憶しています。
そば麩田楽は良さそうですね、綺麗に作ってあって、
青山に支店を作ったようですがHPには載っていませんでした、閉めたのでしょうか?
しかし、いいお値段になっていますね(笑)
そうか・・、それをつまみに、お酒を、ってのもいいですね(^^)
こちら、魅力的なお料理が揃っているけど、確かにちょいっとお財布には厳しそうかも・・。
でも、よかったです、本当にあの二階の部屋でのひととき。
また、ふらりと訪れてみたいです。
食べ歩き始めの頃に良く昼酒をさせてもらいました。
>しかも、滑らかな表面の切り幅にムラのない丹精な蕎麦は、のど越しもいい。これは・・、温かいつけ汁ででも、頂いてみたいなぁ。
「温かいつけ汁ででも」 そう、それが正解かも知れません。
ここのお店の実力は種物にあると思っております。出汁の引き方、素材の良さ等、中途半端な和食屋よりレベルが高いと思います・・ お値段の方も・・・
チョットオドロオドロしくも、チョットスットボケても見えるメニューの「天邪鬼そば」(裾野の蕎仙坊の「鴨にかけそば」の変形バージョンとでも言えるようなやつ)が良いですよ。
長い事行ってないので記憶が定かではありませんが「天邪鬼そば」は確か、あの禅味会系の太い田舎で供されたような(もしかすると私がそう頼んだのかも知れませんが)気がします。あの極太の田舎は多少時間を置いてもへこたれませんので、具だくさんの付け汁と蕎麦を肴にうま酒をやるって言うのがお勧めです。これなら懐にも優しいし、っね!?
昼時を外した時分に人気の無い二階に通されると・・ そして、あの手書きの肴のお品書きを見てしまうと・・
さあ、セッセ・セッセと働かにゃ~
い、いや・・
今日は、午前中で仕事がすんだもので(^^;;;
それはそうとっっ
ええええっ、そそそそうだったんですか??
ああああ・・
私も、早くに訪れていたかった。
(かなり落胆・・)
情報・・・、ありがとうございました。。
それはそうと、つくばの夫婦庵、閉店したようです。
もっと行っておけばよかった。残念。
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